薬物療法・物理療法と神経ブロック
治療に用いられる薬について
腰椎椎間板ヘルニアの保存療法で、最初に行われるのは薬物療法です。
治療に用いられるおもな薬は非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDS‥エヌセイズ)、いわゆる痛み止めの薬と、筋肉の緊張をやわらげる筋弛緩薬です。
非ステロイド性消炎鎮痛薬は痛み止めです。
痛みのもととなっている神経根の炎症を鎮め、痛みを軽くするために非ステロイド性消炎鎮痛薬を服用します。
この薬には多くの種類があり、おのおのの患者さんに合わせた薬が用いられます。
副作用として、胃腸障害、肝機能障害、腎機能障害などが認められ、
最近は副作用が少ないCOX-2選択的阻害薬のエトドラク(商品名ハイペンなど)などが使用されるようになってきました。
使用期間についての基準はありませんが、長期にわたって飲み続けると、肝臓や
腎臓の機能に障害を生じることがあるため、担当医の指示にしたがって使用してください。
●外用薬で痛みをやわらげます
痛みをやわらげるために、湿布剤や塗り薬が内服薬と併用してよく用いられます。
最近の湿布剤や塗り薬のほとんどのものには非ステロイド性消炎鎮痛薬がふくまれているので、痛みを抑える効果があります。
●巌弛緩薬は筋肉のこわばりをとります
痛みのために筋肉が収縮してこった状態が続くと、こりによってさらに痛みが強くなるという悪循環が生じます。
痛みのためにこわばってしまった筋肉の緊張をやわらげて、痛みを軽くするのが筋弛媛薬で、タロルフエネシンカルバミン酸エステル(商品名リンラキサーなど)がよく用いられます。
非ステロイド性消炎鎮痛薬と同時に使うと効果が上がるため、併用することがあります。
副作用として胃の不快感、食欲不振などの消化器症状や、眠気、めまいなどが現れることがあります。
神経ブロックについて
神経ブロックは、おもに脚の痛みに対して、薬物療法で効果が得られなかったときに行われる治療法で、痛みのおこっている神経に局所麻酔薬やステロイド薬を注入して痛みを抑えます。
腰椎椎間板ヘルニアそのものを治す治療法ではありませんが、局所麻酔薬は障害を受けた神経をまひさせて痛みが伝わるのを防ぎます。
また、ステロイド薬には抗炎症作用があって神経とその周囲の炎症を抑えるため、局所麻酔薬に加えて用いると、効果を持続する働きがあります。
おもに行われる神経ブロックは、「硬膜外ブロック」と「選択的神経板ブロック」です。
硬膜外ブロック
硬膜外ブロックは外来診療室で行える治療法です
脚にいく神経を動かしたり、脚の感覚を脳に伝えたりする神経は束になって脊柱管内を通っています。
この神経の束を馬尾といい、硬膜という膜に包まれています。
ヘルニアにより障害を受けている馬尾を包む硬膜の外側の、硬膜外腔というスペースに局所麻酔薬やステロイド薬を注入するのが硬膜外ブロックです。
硬膜外腔には馬尾から分かれた神経根が通っているので、この治療法は神経根にも、馬尾にも効果を発揮します。
多数の神経に一度に作用しますが、とくにヘルニアなどで障害を受けている神経に対して効果が強く現れます。
硬膜外ブロックには、2つの方法があります。1つは、横向きに寝て腰から注射器の針を刺し、椎骨の間から薬を注入する方法です。
もう1つの方法では、うつぶせの姿勢になって、お尻の上のあたりに注射器の針を刺し、尾骨に近いところにある仙骨から仙骨裂孔という孔を通して薬を注入します。
この治療は、外来の診療室でも行うことができます。治療後は10~30分ほどベッドで安静にし、その後、効果を確認して帰宅します。
選択的神経根ブロック
選択的神経根ブロックでは神経根の状態の確認もできます。選択的神経板ブロックは、腰や脚の症状を引きおこしていると考えられる神経板を選んで、少量の局所麻酔薬やステロイド薬を注入する方法です。
この治療はX線透視装置のある撮影室で行われ、患者さんは透視台の上にうつぶせの姿勢になります。
選択した1本の神経根に針を刺すために、X線透視画像で位置を確認しながら針を進め、目的の神経根に達したら造影剤を注入して神経板の画像を確認し、薬を注入します。
治療の最中は電気が走るような痛みがありますが、その痛みのある場所が、ふだんの症状のある場所と一致していれば、原因となっている神経根が特定できます。
治療後は5~10分ほどベッドに横になって安静を保ち、その後、治療効果を確認して帰宅します。
局所麻酔薬やステロイド薬を用いて、障害を受けた神経をまひさせる治療法です。激しい痛みを抑えて、症状の回復を待ちます。
硬膜外ブロック 脊柱管内で、脊髄とそこから続く馬尾を包んでいる硬膜の外側に薬を注入する治療法。 腰椎部分から入れる方法と、腰椎の先にある仙骨部分から入れる方法がある。 |
選択的神経根ブロック 痛みのもととなっている 神経根1本を選択して薬を椎骨(背中側注入する治療法。 神経根は馬尾から分かれて腰椎の外に出る神経のつけ根部分。この方法はどの神経根が障害を受けているかの確認にもなる。 |
腹筋や背筋を強化する運動療法がたいせつです
腰痛がある患者さんでは、体の中心を支える腹筋、背筋の強化が重要です。腹筋や背筋は、体の内側でコルセットのように姿勢を保ち、背骨に負担をかけない働きがあります。
加齢によってこれらの筋力が低下すると、背骨にかかる負担が大きくなり、椎間板の変性の影響を受けやすい状態になります。
運動療法は、筋力を維持して椎間板への負担を減らし、痛みの出にくい体にするために欠かせない療法といえます。
ただし、急性の痛みがあるときには、無理に運動をしてはいけません。
運動療法は医師の指示にしたがって、痛みの原因に応じた運動を安全に行うことが重要です。
装具療法の中心はコルセットの着用です
コルセットに代表される腰の装具は、傷めた部分の安静を保つ、腰椎を安定させる、姿勢の保持を助ける、腰が動きすぎるのを防ぐ、などを目的に、おもに痛みの激しい発症早期に使用されます。
また、手術直後にも腰椎を保護し、弱った筋力を補助するためにコルセットを着用します。
コルセットを着用すると、腹筋・背筋を支えてもらえるので、楽な姿勢をとりやすくなり、筋肉の緊張がゆるむので痛みが軽くなることが多いのです。
コルセットの長さや硬さはさまざまで、患者さんごとに、どの程度の安静や支えが必要かに応じて使い分けます。
コルセットに頼ることで筋力が低下してしまうなど、逆効果になるおそれがあるので、
漫然と着用を続けず、運動療法で腹筋や背筋を強化して、24カ月程度をめどに着用をやめていくようにしましょう。
コルセット着用の目的や期間については、担当医や理学療法士から説明を受けるようにしてください。
いろいろな物理療法があります
牽引、電気、温熱、光線、水など、物理的な手段を用いた治療法を物理療法といいます。 治療を受けてみて痛みが軽くなったり、気持ちがよいと感じたりする患者さんも多くみられますが、症状が悪化するような場合は続けるのをやめましょう。
【牽引療法】
専用の器具を用い、腰椎を引き伸ばして筋肉や勒帯の緊張をとり、椎問関節を広げて椎間板の内圧を下げ、関節の動きをよくする目的で行われる治療法で、痛みをやわらげる効果を期待します。
多くの医療機関の外来で行われている「間欠牽引」は、ベッドにあお向けに寝て軽くひざを曲げ、腰に器具をつけ、1回15分ほどの牽引を繰り返すというものです。
神経根が圧迫されている場合は、痛みが軽くなることがあります。万一、痛みが増す場合は、この治療を受けるのはやめてください。
【電気療法】
皮膚に電極を射りつけ、低周波、高周波などの電流を筋肉が軽く収縮する程度の強さで流し、痛みの軽減や、筋肉のトレーニング効果を期待します。 体の深部まで温めることを目的に、超音波、超短波などを用いることもあります。体内にペースメーカーや骨折の治療などで金属が入っている人は行えません。
【温熱療法】
患部を温める治療法で、筋肉をゆるめ、血行をよくして痛みを軽くすることを目的に行います。 温湿布やホットパックを痛む部分に当てたり、温浴を行うなどの方法が用いられます。
【光線療法】
温熱療法と同様に、患部を温めるために行います。赤外線、紫外線などの治療機器を用います。
【水治療法】
浴槽に入る温浴や、水流・気泡などを利用して、血流の循環を改善させ、さらに運動効果もねらって行う治療法です。